貴方様には敵いません




「…うぅっ」

グスグス、情けない顔をしてタクヤが泣く。

「…なんでお前が泣いてんだよ」
「だってさぁ…」

ズズ、と鼻で息を吸って、ハー、と溜息をつく。涙は止まったようだ。
その横でシンが、ハー、と同じように溜息をついた。
それを横目で見て、タクヤはまた泣き出しそうになる。

「なんか、悔しくない…?」
「…そうか?」

眉を寄せて疑問符をシンが浮かべる。
んー、と考えるように夕焼け空を仰いでいたら突然タクヤが声を発した。

「そうだよ!」

ビックリして(でもさほど表情には出さず)タクヤを見たら、夕焼けのせいじゃなく真っ赤な顔をしてシンを睨んでいた。

「あんな風に罵られて悔しくないのかよ!」

大きな声でそういわれてもシンは平然と

「別に」

と言った。
そんな風に返されてタクヤは、う、と言葉が詰まる。

「向こうがそう思ってんだったらそれでいいじゃねぇか」

ごろん、とシンは寝転がる。

「いちいち反発してっと体力の無駄だからな。オレに責任があることに変わりないし」

もう夕焼け空は暗くなりかけてきている。
もうかれこれ2,3時間くらいこうしているのか、とシンはぼんやりと思った。

先ほど言ったのは本心で、今日シンの部活で3年の引退がかかっていた試合あった。そんな試合のときに、シンがミスを犯したのだった。とは言っても致命的なミスをしたわけではなく、あとでそれを挽回するような得点を稼いだにもかかわらず試合には負けてしまった。シンはもちろん、ミスをした自分のせいでもあると思っている。しかしそこに追い討ちをかけるように、試合後に3年を慕っている同学年や後輩達から罵声を浴びせられたのだった。

(お前らだってミスしてたのにオレだけ責めるわけ?)

そうは言わないけれど、部活でも少し浮いてる存在だったシンは部活仲間から邪険に扱われることが多く、シンもそれに慣れてしまっているからこんなことは今更どうでもよくなってしまっていたのである。

けれど、それを外から見ているタクヤにはどうしても納得が出来ないでいる。

だからシンにそういう風に言われると、タクヤは返す言葉がなくなって黙り込んでしまう。
どうして、皆はシンのことをもっとちゃんと見てあげないのだろう、と。

「…」

黙り込んだタクヤを見てシンは少し笑う。
こんな風に、シンの身に起こったことを自分のことのように喜んだり怒ったりしてくれるのはタクヤだけだ、とシンは少し嬉しくなる。
今までこんな風に接してくれる人はいなかったから、余計そう思うのだ。
少し申し訳なく思うことはあるけれど。

シンは起き上がってタクヤの頭を撫でる。
タクヤは横目でシンを見る。まだ涙目のままの目を見つめたまま、シンは

「それにな」


手をタクヤの頬に触れさせる。


「お前が泣いてくれてるしな」


そう言って笑ったシンを見て、タクヤは照れ隠しのために苦笑いをして誤魔化すしかなかった。



君がそれでいいなら、僕もそれでいいよ。






end




こういう理由で泣いてる男の子はあんま好きじゃないけどそれは置いといて。
シンはタクヤには敵わないし、タクヤはシンに敵わない、というお話でした。
山も意味もオチもないよ。

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