涙はそのうちかわくから




仲間が一人、死んだ。


自分がこの集団に入ってから初めての出来事だった。
まだ仲間になって間もない自分をとても可愛がってくれた。皆に好かれてる人だった。
すごく優しくて、あったかくて、強くて、憧れの人だった。
だから死ぬはずない、と思ってたのに。


その人は、自分を守って死んだ。


自分の非力さ、悲しさ、やり場のない怒り。
どうしてあの人が死ななきゃならない。本当は自分がそうなるはずだったのに。

自分が、そうなればよかったのに。

その人を殺したヤツは仲間の手で殺されたけど、失ったものの大きさが仲間全員を襲った。


けれど、誰一人として泣かない。誰も自分を責めない。


「あの人を失ったのは辛いけど、こんなこと、日常茶飯事だよ」と、ハハ、と軽く嘲笑うかのように笑顔を作った先輩を見て、どうして泣かないんだろうと思った。
笑った先輩を見て、余計腹が立って、涙が溢れた。


人前じゃ泣けないから、だからこんな夜中に、物陰に隠れて、声を殺して泣いていたのに。


苦手な、あの人に見つかってしまった・・・。



「・・・なに、してんの」
「・・・・・・・」
「・・・・・・なんで泣いてんの」

冷たくそう言って、こちらへゆっくりと近づいてくる。
その気配が怖くて体が強張る。

先輩は自分の泣き顔を見てどう思っているだろう。大きく溜息をついて傍らに座り込んだ。

「・・・あのさ、悲しいのは分かるけどさ



・・・いつまでもそんなんじゃ・・・ココでやってけないヨ?」



静かで、けれど力強い口調。

分かっている。そんなことは分かってる。つもりだった。
でも、皆が慕っていた大好きな人を失って、誰一人として涙を流さないなんて人じゃない、と思ってしまう。

何も言わず、ただ涙を流すだけの自分を見て、先輩が肩を抱いてきた。

「・・・自分が死ねばよかったとか思ってる?」
「・・・・・・・」

図星をつかれる。

何も答えないのを肯定に取った先輩は、また大きく溜息をついた。

「あのさ、あの人の気持ち、ちゃんと分かってんの?」
「・・・?」
「・・・・君を守ったのは、君に生きてほしかったからだよ?」

ハッ、と、顔を上げる。

「大切な仲間だから、生きていてほしかったから、守ったんだよ?」
「でも・・・・・」
「新入りだから、弱いから、子供だから、そんなことは関係ないよ。ココに入ったときからもう"大切な仲間"なんだヨ?みんな、そう思ってる」

涙がまた流れる。

「誰も君を責めないのはそういうコト。それに、皆ちゃんと分かってるヨ。君が泣いてることも、その理由も」


"仲間の死を無駄にしたらダメだよ"



「だから、もっと強くなりなさい。そう思わなくても済むように。見た目的な力だけじゃなくて、ちゃんと、ココロも。



分かった?」
「・・・・・・っ」


ふいに、顔を彼の胸元に埋めるように抱きしめられた。
腕で泣き顔が見えないように

「・・・今だけだからね」
「え・・・・?」
「泣くの許して、黙ってるの。オレそんな優しくないから」

なかなか説得力がないなと思いつつ、その好意に甘えて声を押し殺して泣いた。


もっと、強くなろう。
いつか涙はかわいてしまうけど、この思いは消えないから。
自分を守ってくれたあの人が誇れるように、あの人の死が無駄にならないように。


ココの仲間が誇れるように。


自分に、誇れるように。




end




主人公はどちらでも取れるように性別はナシ。相手役もご想像にお任せします。
口調から誰をモデルにしたか分かる方もいるかもしれませんけど…。

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