俺はヒマワリ



残暑厳しい9月の中ごろ。
せっかく学校が始まったというのに、一週間近く、インフルエンザというやつにかかってしまって俺は学校に来れずにいた。


学校には、アイツがいるのに。

俺の、太陽みたいなヤツが。




「ひまわりクン」

4時間目が終わって、お昼休み。
授業中爆睡していた俺をクラスメイトの女の子が起こしてきた。

「ひまわりクンってば!」
「…んー?」

目をこすって、髪をぐしゃぐしゃとかいて、目を覚まそうと体を起こす。


"ひまわり"というのは、俺のあだ名。
俺の本名が"ムコウ アオイ"と言って、"向日 葵"と書く。"向日葵"は"ひまわり"と読めるらしいことから、中学の頃から定着してしまったあだ名だった。
最初は嫌だったけれど、もう馴染みきっている。だから高校に入学してすぐ、髪をキンパツに染めた。どこにいても目立つその色は、教師には目を付けられたものの生徒からは大好評で、俺のトレードマークになっていた。おかげで女の子にもモテるし、友達もずいぶん出来た。むしろ、この学校の名物と化しているかもしれない。


俺が背伸びをして少し目が覚めかけたところで、女の子が俺の机の上に一枚のプリントを置いた。
どうやら文化祭のスローガンらしきものを考えてくださいという、実行委員からのネタ集めらしい。
体育祭とか、文化祭とか、必ずこういうテーマが存在する。
考えるのがメンドくせぇのに。

「委員長がね、このプリントを今日中に提出してくれって。ひまわりクン、この1週間学校休んでたでしょ?その間に配られたやつで今日が締め切りなの。テキトーでいいから、書いて提出してくれって」

委員長が…か。


――――テメーが持ってこいよ…


そう思っても、口には出せない。
俺はどうも委員長に嫌われているらしい。見知らぬ人にも「ひまわりクン」と呼ばれて親しまれているのに、コイツだけは俺の名前をほとんど呼ぼうともしないし、口もきいてはくれない。もう2年目の付き合いになるというのに、だ。


委員長、"アマノ アキラ"。"天野 陽"と書くから、俺は勝手に「太陽クン」と心の中で呼んでいる。



俺が"向日葵"なら、アイツは"太陽"なんじゃないかって。



そう口に出して言ったとき、思いっきり睨まれたのを、今でも忘れない。

2年生になって、2年連続同じクラスになれて密かに嬉しかったけれど、アイツは俺を見たとき、溜息をついていた。



そんなに、俺が嫌なのか。





「分かった、有り難う」

俺は女の子に微笑いながらそう言って、机に置かれたプリントを見つめた。
こういうのを考えるのは、面倒。実行委員でもない俺たちがなぜ考えなくちゃいけないんだろう、といつも思う。
しかも"全員提出必須条件"というところがまたムカつく。
書きたいヤツだけ書けばいいのに。嫌でも、委員長にこのプリントを渡さなくちゃいけないところが、本当、嫌だ。


しかたなく、俺は「テキトーに」と書いて席を立った。

廊下側の列の一番前の席。


委員長の席だ。


授業中、暇が出来るとついつい見てしまうその席で、委員長は真面目に授業を受けている。
俺が見るのはいつもうしろ姿。横顔すらまともに見れない、この位置がとてもイラつく。
メガネのフレームが時折見えるだけで、真正面の顔なんて、数えるほどしか見たことがない。
クラスの集合写真に写ってる委員長の顔は本当にキレイで、男からも女からも「委員長ってキレイな顔してるよねー」と言われてたほどだった。

本人は"キレイ"と呼ばれるのを嫌っている。
そりゃ男が"キレイ"と言われてそんなに嬉しいはずはないけれど。


委員長のことを、名前で呼ぶ人は、ほとんどいない。
唯一、彼の幼馴染だという"星川 流"という1つ上の先輩が"アキラ"と呼ぶのを耳にするだけ。
なんとなく、委員長の特別な存在という感じがして毛嫌いしてしまっている。

俺だって、いつか、"委員長"ではなく"陽"と、呼んでみたい。





委員長の横に立って、俺はプリントを差し出した。


「…これ」


委員長は、プリントをしばらく見つめたあと、スッ、と受け取った。


「…アリガトウ」


この間、一度も俺の顔を見ようとはしない。
匿名希望のスローガン、出しているのはオレ。話しかけているのもオレ1人。それでも委員長は視線を下にしたままだった。
目を見てくれたっていいのに、といつも思ってしまう。
他の人には、笑顔はないけれど、目を見て言うくせに、俺に対しては目を見てくることがほとんどない。


本当に、"ひまわり"と"太陽"みたいな関係で、心底嫌になる瞬間だった。


あまりにも距離がありすぎて、俺が見つめてることすら気付かないのか。


俺のこの気持ちは、一生、届かないのか。






オレは、ひまわり。

太陽を見つめる、ひまわり。

見つめずにはいられない、この性が悲しい。




end




以前小説サイトを開いているときに書いた駄作です。ボーイズラブ率多くてスイマセン…。

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