おアイコでご愛嬌





外から帰ってきて、誰もいないと思っていた教室のドアを開けたら一つの影。
窓際の机の椅子に、だらしなく座ったその影。


だ。



「あ、ん、れ?」


私は声を上げた。
椅子の上でがバリバリとどこかで貰ったであろうせんべいを頬張りながら雑誌に視線を向けている。けれど、私が声をかけたことによってその視線は私へと向けられる。


「残ってたんだー」
「おー。おきゃーり」
「あ、ただーま」

そしては再び視線を雑誌へと戻す。私はそれを気にも留めず先ほどコンビニで買ってきたお菓子類をガサガサと漁る。美術室に残っている友達のお使いに借り出されて買った来たものだった。

買い忘れはないかな、とレジ袋の中を覗くと、袋の底でなにやら買い覚えのない菓子が一つ。私は首をかしげて、でもせっかく買ってきたのだから、とそれだけを手に取りの傍へと近寄る。

雑誌をボーっと見ているの隣に私も腰掛ける。ページの中ではSFヒーローらしき2人が戦闘を繰り広げている。

「・・・面白い?」
「・・・まぁまぁ」

だろうな、と私は手に持っていた菓子の袋を、パリ、と開けた。無関心そうに雑誌ページを、せんべいを頬張ったまま見つめ続けるに菓子を差し出す。差し出されたのに気付いたが視線を雑誌から菓子へと落とす。
けれど、沈黙状態。

「・・・ハイ」

私は声を出して再び菓子をへと突き出す。が、は怪訝そうに眉をしかめて口の中にあったせんべいを食した。

「・・・なにこれ?」
「んー・・・おみやげ?」

はまだ眉をひそめたまま。

「・・・今食えって?」
「そうだね」

何の疑問も持たずに私がそう言うと

「・・・今せんべい食ってるやつに向かって?」

と、視線を机と私を交合に移し、最後に菓子へと落とした。確かに、机の上にはまだ食べるのであろうせんべいの残りが無造作に転がっている。そこでようやく私は、ああ、と気付いた。

「それもそうだね」

自分でもなかなかボケている、と思いつつ、菓子をから自分へと移し、袋から出ている部分を口の中へと入れた。パキン、と音を立てて菓子が砕ける。

「・・・なにしてんの?」

がまだ眉を顰めたままの顔で訊いてきた。

「・・・食べてんの」
「・・・今俺に差し出したやつを?」
「そう」

そしてもう一口、パキン、と菓子を頬張る。は、納得いかない、という顔をしている。その表情を不思議に思って、私はに訊いた。

「・・・だって食べないんでしょ?」
「・・・食べないと言った覚えはないけどなぁ」

・・・あ、そうなの?、と私は口を動かすのを止めた。
確かに「食べない」とは言わなかったけどああ言われれば誰でも「食べないんだな」と思うんじゃ・・・
と、私は一人菓子を見ながら悶々としていた。

けれど、そんなあたしの様子を見ていたは、クク、と小さな笑みを漏らしていた。今度は私が眉を顰める。人が真剣に考えているのにナゼ?と。

手に取った覚えはないけどなぜか買ってきてしまったお菓子。このまま食べないのはもったいないし、友達の手伝いで残ってた学校。窓際で見つけた好きな人の影。何か話すきっかけになれば、と思って差し出したものだったのに。

そんな私の考えを知ってか知らずか、は私の手首を掴み、手の中にあった菓子を一口頬張った。パキン、と、大きめの口で大きめな一口を頬張る。

「これでいい」

と、は頬張った分を食し終えて「ごちそうさま」と言ってまた雑誌へと視線を戻してしまった。



・・・あの?


これ、私が今口つけてたヤツなんですけど??



残り3分の1となってしまった哀れな菓子。
が口をつけた菓子。


「・・・」

私は無言でその菓子を再び頬張った。




これでアイコだ。
どちらも口をつけた。だからきっとなんとも思われない、はず。


菓子を食べ終わった私はそそくさと教室を出た。
きっと、からは私の表情は見えていないはず。




「・・・隠してるつもりかなー?」



はしっかり、私の動揺した、少し赤くなった表情を盗み見ていたのだった。




end



…お粗末さまでした。

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